犬と猫…ときどき、君


真っ直ぐ私を見つめるその瞳に、どう返事をしたらいいのか言葉に詰まる。


「彼女と別れてたのは誤算だった」

そう口にして、小さく震え出した私の肩に、着ていたパーカーをパサリとかけた。


「……ありがと」

「いいえ」


――それで、今野先生が彼女と別れてどうこうっていうのは?


肩にかけられたパーカーから伝わる城戸の温もりと、微かに香る、煙草の香り。

さっきから、心臓がバクバクとうるさくてしょうがない。


「今野、ちょっと前に連絡取った時、彼女いるって言ってたから」

「……」

「油断した」


“油断”って、何?


「お前に手ぇ出すとは思わなかった」


ねぇ、城戸。

どうして、そんな困ったような顔をするの?

今野先生が私に手を出したって、城戸には関係ないじゃん。

それとも、自分の元カノと、友達がそういう関係になるのが嫌?


「城戸」

「ん?」

「聞いていい?」

「……」


もう、離れないと。


「城戸は、今も松元さんと付き合ってるんだよね?」


静まり返る公園に、小さく響く自分の声。


「おー。付き合ってるよ」

「……そっか」


私は、バカだ。


「そうだよね」

「……」


だって、本当は少しだけ期待してたんだもん。


“別れたよ”――そんな言葉じゃなくて。

私の言葉で、城戸がもっと動揺するんじゃないかとか、驚くんじゃないかとか。


そんなくだらない事を、期待してたんだ。


だけど目の前の城戸は、大好きだったその瞳で私の目を真っ直ぐ見据えたまま、ハッキリとした声で“付き合っている”と告げた。


マコ――……。

マコの見解は外れてたね。


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