犬と猫…ときどき、君


――それじゃダメなんだよ、胡桃。


さっきまでドクドクと音を立てていた心臓は、ゆっくりと落ち着きを取り戻して。

俺は静かに息を吐き出し、口を開く。


「俺達少し、距離を置いた方がいいのかもな……」


“俺達”じゃなくて、本当は“俺”。

俺がもう、限界だったんだ。


どう足掻いたって、もう胡桃は俺のものにはならないし、昔みたいに、俺の名前を呼ぶ事も、俺の腕の中で、安心しきったように笑う事もない。


ゆっくりと伸ばした手で、最後に触れた綺麗なその髪からは、昔と同じ香りがして……。

「それ、やるよ」

それでもやっぱり俺達は、昔のように“友達以上”には、戻れないんだ。


本当は、ちゃんと胡桃を家まで送らないとと思った。

だけど、こんな情けないところを見せるわけにはいかないから。


車に乗り込んだ瞬間、バカみたいに息が苦しくなって、握りしめた拳をハンドルに振り下ろした。


鈍い音と共に、手に伝わる微かな痛み。

でも、こんなもんじゃない。


「こんなんじゃ、全然足んねぇよ……」


この胸の痛みを打ち消すには、こんな痛みじゃ……全然足りない。


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