犬と猫…ときどき、君


「――もしもし」

「あー、芹沢先生? 今電話大丈夫?」

意を決して、通話ボタンを押した私の耳に届いたのは、いつもと同じ様子の、今野先生の声だった。


「……うん。どうしたの?」

「いや、今日ってもう沖縄着いてるんだよな?」

「うん」

「そっか。城戸も一緒?」

さも当然のように、今野先生の口から出たその名前に、一瞬言葉に詰まる。


「うん。一緒だよ」

「そっか! じゃーさ、また三人でメシ食わねー?」

「え?」

「あ、もしかして、もう食った?」

「ううん! まだ、だけど……」

突然の今野先生の言葉に、私はどうしたらいいのか分らずうろたえてしまった。


ゆっくりと城戸のいる方に視線を向けると、何となくそれを感じたのか、顔を上げた城戸と目が合って、真っ直ぐ私を見つめるその黒い瞳に、胸がドクンと大きな音を立てる。


「今、その辺に城戸いる?」

その瞳から目を逸らせないでいた私は、今野先生の声にハッとした。


「う、うん」

「変わってもらっていい?」

「え?」

「何か芹沢先生、変だから。城戸と話すよ」

クスクスと、まるで私をからかうように笑った今野先生。


それに戸惑う私の手から……

「もしもし? 今野か?」

いつの間にか隣に立っていた城戸が、携帯をスッと抜き取った。


「おー。丁度よかった。どっかいい飯屋知らねー?」

「……」

「あー、そうだったんだ。分かった。じゃー今からそっち向かうわ」

事態が掴めず呆然とする私の目の前で、二人は勝手に話を進めていく。


「はいよ。じゃー、また後で」

そんな言葉を口にして、通話を終えたっぽい城戸は、それをパタンと閉じて、私に“ほい”と差し出したんだ。

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