犬と猫…ときどき、君

「胡桃――」

「春希」

それまでこぼしていた涙を、拭った胡桃の、俺の声を遮って口にされた感情を抑え込んだようなその声に、鳥肌が立った。


「もう、全部終わらせたいの」

「……」

「春希は、松元さんが好き?」


“好き”?

俺が、あの女のことを……?


胡桃の真っ直ぐなその視線に、言葉に詰まって、何も言えなくなる。


そんな俺を見て、胡桃は何かを決心したように一度大きく息を吐き出して……言ったんだ。


「私のこと、振って欲しいの」

「――……っ」

「こんなことを春希に頼むのはおかしいって、分かってる。だけど……」


なぁ、胡桃。


「このままじゃ、もうただの同僚にも戻れない」


もしも俺が……


「だから、お願い。私のことを、振ってて欲しい」


胡桃のことが好きだって、そう言ったら。

お前はどう思う?


「胡桃」

「……え?」


その愛しい名前を呼んで、もう一度自分の腕の中に、その体を閉じ込めて……。


「好きだ」

「――……っ」


ギュッと強くその体を抱きしめ、首筋に顔をうずめれば、鼻をくすぐる、昔と変わらない胡桃の香り。

溢れ出した気持ちは、もう止める事なんかできなくて。


「胡桃が好きだ……っ」


あんな女じゃなくて、俺はずっとずっと、胡桃が好きなんだ。

< 445 / 651 >

この作品をシェア

pagetop