犬と猫…ときどき、君


腕の中の胡桃が、息を飲む。


「春希」

頼むから、そんな声出すなよ。


「やめよう?」

「……っ」

「もっと大事にしてあげて」


一体どこまで戻せばいい?


「松元さんのこと、もっと大事にしてあげなきゃ」


胡桃と俺の時計の針を、一体どこまで戻せば……。


間違えを犯した、あの図書館?

それとも、胡桃に出逢った、あの瞬間から?


「胡桃」

「……うん」

「仕事、好き?」

「え?」

俺の突然の問いかけに、胡桃は戸惑いの表情を浮かべる。


「今の病院、好きか?」

「……うん。すごく好き」

「そっか」


小さく笑った俺を見て、眉間にシワを寄せた胡桃のその目を、真っ直ぐ見る事さえ出来ない俺は、やっぱりクソ弱い人間だ。


「ごめん」

「……」

「胡桃とは、付き合えない」

「うん」

「好きだって言ったことも、忘れて欲しい」

「……うん」


ごめん、胡桃。


「アイツの事、もっと大事にするよ」

「……そうだね」


こんな時まで、無理に笑わせてごめん。


「だから……ごめん」


また嘘をついて――……

ごめん。


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