犬と猫…ときどき、君


「ねー」

「んー?」

「どこ行くのー?」

「……さぁー?」


“さぁー?”って。

まぁどこでもいいんだけどさ、取りあえず手を放して欲しいかも。

少し前を歩く城戸春希の手は、合コン会場だった居酒屋を出てから、ずっと私の手と繋がったまま。


実験の時に、いつも“綺麗だなー”なんて、こっそり思ってたその指が、私の手をしっかり握っている。


さっきからずっと心臓のドキドキが止まらないのは――しばらく歩いているせいなのか、それとも、この温かい手のせいなのか。

もう、よくわからない。


ここまでずっと同じクラスで、実験班も一緒。

マコと篠崎君が仲良しだから、それなりには話はするけれど、とくに男とか女とか、そういう関係で進展のない私たち。

だけど多分、他の人よりも少しだけ深く繋がっている気がしている。


出逢った時から、何も言わなくても私の気持ちを理解している城戸春希。

そんな彼と一緒にいる事を、私は心のどこかで“心地よい”と思っているんだ。


前を歩く城戸春希の、広くて意外に姿勢がいいスッと伸びた背中とか、一年生の時より少し長くなったけれど、変わる事のないその黒髪とか。


校舎のどこかで姿を見かける度に、ちょっとだけ心が跳ねて嬉しくなる。


それってやっぱり、好きって事なのかな?


「ふー……」

治まらないドキドキを隠すように、小さく息を吐き出す私に「疲れた?」と問いかけながら振り向いた彼は、少し屈んで私の顔を覗き込む。


「……ちょっとだけ」

頭一個分高いところにあるその顔を見上げると、彼は目を細めてフッと笑い、

「もうちょい。ガンバレ」

そのままクルリと前を向いて、またゆっくり歩き出す。


少し急になり始めた上り坂を登りながら、さっきよりも強く握られる手。


「……」

どうしよう。

心臓が痛いかもしれない。

< 45 / 651 >

この作品をシェア

pagetop