犬と猫…ときどき、君
「ねー」
「んー?」
「どこ行くのー?」
「……さぁー?」
“さぁー?”って。
まぁどこでもいいんだけどさ、取りあえず手を放して欲しいかも。
少し前を歩く城戸春希の手は、合コン会場だった居酒屋を出てから、ずっと私の手と繋がったまま。
実験の時に、いつも“綺麗だなー”なんて、こっそり思ってたその指が、私の手をしっかり握っている。
さっきからずっと心臓のドキドキが止まらないのは――しばらく歩いているせいなのか、それとも、この温かい手のせいなのか。
もう、よくわからない。
ここまでずっと同じクラスで、実験班も一緒。
マコと篠崎君が仲良しだから、それなりには話はするけれど、とくに男とか女とか、そういう関係で進展のない私たち。
だけど多分、他の人よりも少しだけ深く繋がっている気がしている。
出逢った時から、何も言わなくても私の気持ちを理解している城戸春希。
そんな彼と一緒にいる事を、私は心のどこかで“心地よい”と思っているんだ。
前を歩く城戸春希の、広くて意外に姿勢がいいスッと伸びた背中とか、一年生の時より少し長くなったけれど、変わる事のないその黒髪とか。
校舎のどこかで姿を見かける度に、ちょっとだけ心が跳ねて嬉しくなる。
それってやっぱり、好きって事なのかな?
「ふー……」
治まらないドキドキを隠すように、小さく息を吐き出す私に「疲れた?」と問いかけながら振り向いた彼は、少し屈んで私の顔を覗き込む。
「……ちょっとだけ」
頭一個分高いところにあるその顔を見上げると、彼は目を細めてフッと笑い、
「もうちょい。ガンバレ」
そのままクルリと前を向いて、またゆっくり歩き出す。
少し急になり始めた上り坂を登りながら、さっきよりも強く握られる手。
「……」
どうしよう。
心臓が痛いかもしれない。