犬と猫…ときどき、君

「松元 詩織《まつもと しおり》ちゃん」

「……ふーん」


去年、うちの大学のミス何とかに選ばれた彼女は、

「――通称“ぶりっ子·しーチャン”」

いまどき珍しい清楚な出で立ちで、驚くほどの、ぶりっ子らしい。


「あ?」

「女の子の間ではそう呼ばれてるらしいよ。私は喋った事ないから、知らないけど」


目の前の枝豆に手を伸ばしながら彼女に視線を向けると、真っ赤な顔で横に座る男の子にしなだれて、バッチリ上目づかいを決めている。

そりゃもー……完璧に。

隣の男の子も、さぞ嬉しいだろうに。


「男の子って、あーゆー子好きだよね」

「……まぁな」

「……」

結局、城戸春希も他の男と一緒か。


――そう思ったのに。


「まぁ、俺はあんたみたいなのの方がいいと思うけど」

まるで、大した事でもないかのように落とされた、城戸春希の言葉。

「……は?」

そして人の反応を覗うように、その黒い瞳で私の目を真っ直ぐ見据える。


「……」

「……」

えっと、この沈黙は……どうすればいいの!?

何か言うべき?

「からかわないでよー!」とか?

でもそれって、相当可愛くないよね!?


きっと、深い意味なんてない。

それはわかってるのに、心臓はドキドキするし、頭の中はすっかりパニック状態だ。

そんな私に追い討ちをかけるように、城戸春希はまたボソッと何かを呟いた。


「……わかりづれーな」

「え?」

「まぁいいや」

いやいやいやいや……。

私はよくない。

すっかり置いてきぼりをくらっている私を見て、何が楽しいのか“くくくっ”と、かみ殺しきれない笑いを漏らした彼は、

「帰ろ」

突然そう言って立ち上がると、全く状況を掴めていない私の腕を取り、他の人達に声をかけて、そのまま外に私を引っ張り出したのだ。


まるで、あのクラスコンパ日と同じように――。


< 44 / 651 >

この作品をシェア

pagetop