犬と猫…ときどき、君
「松元 詩織《まつもと しおり》ちゃん」
「……ふーん」
去年、うちの大学のミス何とかに選ばれた彼女は、
「――通称“ぶりっ子·しーチャン”」
いまどき珍しい清楚な出で立ちで、驚くほどの、ぶりっ子らしい。
「あ?」
「女の子の間ではそう呼ばれてるらしいよ。私は喋った事ないから、知らないけど」
目の前の枝豆に手を伸ばしながら彼女に視線を向けると、真っ赤な顔で横に座る男の子にしなだれて、バッチリ上目づかいを決めている。
そりゃもー……完璧に。
隣の男の子も、さぞ嬉しいだろうに。
「男の子って、あーゆー子好きだよね」
「……まぁな」
「……」
結局、城戸春希も他の男と一緒か。
――そう思ったのに。
「まぁ、俺はあんたみたいなのの方がいいと思うけど」
まるで、大した事でもないかのように落とされた、城戸春希の言葉。
「……は?」
そして人の反応を覗うように、その黒い瞳で私の目を真っ直ぐ見据える。
「……」
「……」
えっと、この沈黙は……どうすればいいの!?
何か言うべき?
「からかわないでよー!」とか?
でもそれって、相当可愛くないよね!?
きっと、深い意味なんてない。
それはわかってるのに、心臓はドキドキするし、頭の中はすっかりパニック状態だ。
そんな私に追い討ちをかけるように、城戸春希はまたボソッと何かを呟いた。
「……わかりづれーな」
「え?」
「まぁいいや」
いやいやいやいや……。
私はよくない。
すっかり置いてきぼりをくらっている私を見て、何が楽しいのか“くくくっ”と、かみ殺しきれない笑いを漏らした彼は、
「帰ろ」
突然そう言って立ち上がると、全く状況を掴めていない私の腕を取り、他の人達に声をかけて、そのまま外に私を引っ張り出したのだ。
まるで、あのクラスコンパ日と同じように――。