犬と猫…ときどき、君
「雨降ってきたぞ」
「みたいだねー」
「服濡れた」
開いたドアの向こうから、パタパタと服をほろいながら医局に戻った春希の、髪に落ちた雨粒。
「髪も濡れてるよ?」
雨粒がキラキラする前髪の奥のその瞳は、相変わらず綺麗で。
「ホントだ」
犬みたいに頭を振ったその髪から香るシャンプーの香りも、昔のまま。
それを懐かしく想う、どこか柔らかくて温かい気持ちと、忘れたいのに忘れられない、胸の痛み。
それが胸をしめつけて、一瞬言葉に詰まりそうになる。
「酸性雨でハゲるかもね」
「は? お前、マジふざけんなよ。最近ちょっと気にしてんだから」
「気にしてたんだ」
「当たり前だろ。俺だって若く見えて、お前と同じ年なんだぞ?」
「……それ、どういう意味ですか?」
「くくくっ!」
だけど、それを覚られないように。
気持ちが溢れ出ててしまわないように。
私はまた、小さな嘘を積み重ねていく――……。