犬と猫…ときどき、君
「何を……言ってるの?」
「松元サン、アンタが好きなのは、俺じゃないよ?」
「……」
「あぁ、もちろん胡桃に対するそれが、恋愛感情なのかそうじゃないのかは知らないけどさ」
そんな言葉を吐きながら笑った俺を、意味が分からないと言わんばかりに見上げるコイツは、やっぱり自覚がないんだな。
それに気付けるか、気付けないか。
その差が、俺とアンタの差なんだよ。
「好きと嫌いって、ホントちょっとの差でさ。俺も昔、それに気づかないで嫌いになりかけてた人がいたんだよ」
「話が、全く理解出来ないです」
「だからこうして話してんだろ?」
少しだけ自然に笑みが零れた俺に、彼女は驚いたように目を見開き、それをスッと逸らす。
「アンタの事は嫌いだけど、その気持ちは分かるから……」
だから、何だかんだ言っても、思いきり突き放せなかったのかもしれないな。
「お前さ、胡桃のこと大好きなんだろ」
「……っ」
いつも胡桃の傍にいた及川さんは、あの頃の俺にとっては、すごく脅威に思えていて――“周りの誰からも頼りにされて、男からも、女からも好かれる人”――そんな強い印象を植えつける人だった。
胡桃と及川さんの噂がたった時だって、あの人が俺よりも勝っているから、だからそんな噂が立つのかもしれないなんて……。
ホント、恥ずかしくなるくらいの嫉妬心でいっぱいだった。
でも胡桃と別れて、冷えた頭で考えて、やっと気が付いた事があった。
それってホントに“今更”って感じだったけど。
簡単すぎるその気持ちに気が付けなくて、胡桃に当たって、傷付けて。
「ホント、何してんだろうな……俺も、お前も」
今はそんな風には思わないけれど、あの頃の俺は、どうしても及川さんみたいになりたかったんだ。
“憎さ余って、可愛さ100倍”じゃないけどさ……。
「憧れすぎると、感情が逆流するのかもな。意味、分かる?」
「……」
ホントは分かってるんだろ?
俺を睨み上げるその瞳に、フッと笑いをもらして、
「松元サンは、俺の事が好きなワケじゃない。ただ……胡桃に憧れてるだけなんだよ」
静かにその言葉を口にした。
どれだけ彼女に伝わるのは分からないけど、きっとこのままじゃダメなんだ。
「言っただろ?“アンタは胡桃にはなれない”って」
目の前のこの人は、誰かの愛情を一身に受ける、胡桃になりたかっただけ。