犬と猫…ときどき、君
ごめんね、マコ。
自分でも、ホントは分かってるんだよ。
あれから、留学の事を口にしない春希の「ちょっと時間ちょうだい」の“ちょっと”が、一体どれくらいの時間なのか。
病院の事もスタッフの事も、考え出すと不安になって……。
それに、その時が来たら、私は動揺しないできちんと春希を送り出せるのかな?
そうなるには、やっぱり今野先生を一番に想えていないと、きっとダメだと思うんだ。
ゴチャゴチャと考え込む私を、マコはしばらく眺めていたけれど、きっと彼女なりの気遣いなんだろう。
「胡桃ー、今度篠崎ママとランチ行くんだけど、どっかいいとこ知らない?」
そう言って話題を逸らして、困ったように私の顔を覗き込んだ。
「二人で会うの?」
「うん。パパさんと透と四人で会う予定なんだけど、二人がセミナーでさ。終わるまで二人でご飯食べて待ってましょーって言われた」
「へぇー」
「何回か会ってるけど、やっぱり緊張する」
「あははっ! マコにも敵わない人がいるんだ」
「はぁ!? いるにきまってんじゃん!!」
「そっかそっか」
最近の私は、なんか変。
こうして笑っているのに、それをどこか遠い所から見ている、もう一人の自分がいるみたい。
「まぁ、頑張ってよ」
「もー、他人事なんだから!!」
未だにブーブー文句を言っているマコをクスクスと笑いながら、私はまた窓の外に視線を向けた。
チラチラと舞い始めた雪に気が付いて、“積るかな”なんて、ぼんやり思う。
「ほらマコ! 急いでご飯食べちゃわないと!! オペ間に合わなくなっちゃう」
「あぁ!! ホントだっ! 急げー!!」
今野先生の事を、もっとたくさん知りたい。
たくさん知って、もっともっと好きになって……。
だけど、いつもそこまで考えて、続く言葉にハタとする。
もっとたくさん好きになって……
“春希のことを、忘れてしまいたい”。
今野先生のことが好きだから傍にいるのに、それを口にしてしまったら、今野先生を利用していると言っているのと同じこと。
「――最低」
オペの準備をすると言って、マコが出て行った医局に、静かに響いたその言葉。
“大切に想う人が二人いる”なんて……。
誰にも理解してもらえないかもしれないこの感情を、人に話すのが怖い。
自分で自分が許せないくらい最低な事だって分かっているから、マコにも誰にも話せずに、私は毎日毎日、結論も出ない同じことを考え続ける。
まだ知らない今野先生を知ったら、きっともっと好きになる。
もっともっと好きになって、他の人のことが考えられなくなるくらい、私は今野先生の事を好きになりたい。