犬と猫…ときどき、君
「あぁ、もう必要ない物はほとんど捨てたし、取りあえず何日か暮らせる物があればいいから」
「でも、向こう行くのって三十一日ですよね?」
だから、お前はどうしてそんなに何でも知ってるんだよ……。
訝しげな俺の視線に気が付いた仲野は「いや、あの、たまたま研究室で聞いちゃって」なんて、嘘なのか本当なのか分らない事を慌てながら口にする。
コイツに限って、また変なところから情報取集しているってことはないだろうけど。
まぁ、病院を辞める時に、何人かのオーナーにも聞かれたし、研究室には及川さんもいるし。
どこかからそれが洩れていても、おかしくはないか。
やっと様子を探るような視線を逸らした俺に、仲野はホッとしたように息を吐き出して、「何か手伝いますか?」と、あいつらしい気遣いの言葉を口にする。
「いや、いい。マジで」
つーか、その女がいると落ち着かないからさっさと帰って欲しいんだけど。
ちゃんとしたきっかけは、やっぱり分らないままだけど、どうやら“別れた”らしい俺達。
でもやっぱりこの女は苦手というか、何というか。
「そうですか……って、城戸さん。飛行機のチケット、こんなとこに置いてたら、絶対に捨てると思いますけど」
だけど仲野は、俺の気持ちになんて微塵も気付かずに、手伝う気満々で、ゴミ袋のすぐ横に落ちていたそれを、ヒョイっと拾い上げた。
「おー……あぶねっ!」
差し出されたそれを受け取って、中身があるか確認する為に封筒を開けて、
「三十一日の、何時の便で行くんですか?」
その声に、一瞬ドキッとして手を止めた。
「……」
「城戸さん? どうかしましたか?」
「いや、何でもない」
こいつらなら、まぁいいか。
だって、ここからなら絶対に伝わる事はない。
「ホントは、一週間後に行くんだ」
「え……?」
チケットに書いてある出発日は、三十一日なんかじゃない。
「一週間後……?」
「あぁ」
――本当の出発日は、二十四日。
俺は最後に、また最低の嘘を吐いた。
胡桃に繋がる可能性のある人間全員に、大きな嘘を吐いたんだ――……。