犬と猫…ときどき、君


「あれー?」

「どした?」

「いや、ここにペン置いてたはずなんだけど」


それは、ほんの些細なことから始まった。


「ペン? そこにあるやつじゃなくて?」

「うん。三色のやつ」


一番最初に気が付いたのは、机の上に置いてあったペンがなくなったあたりから。


「んー、どっか別の所に置いたのかな?」

「お前そういうとこ意外とだらしないもんな」

「は? 城戸に言われたくないんですけど」

「はいはい。さっさと午後の診察行きますよー」


ちゃんとそこに置いておいた気がしたんだけど……。


若干変な気持ちが残ったまま、それでも春希にバカにされて、その日はプンプンしながら診察に向かった。


次の日は、なにも起きない。

その次の日も、その次の日も。


――だけど、ペンのことがやっと頭から離れたその次の日。


「……城戸ー」

「あー?」

「私のお茶、冷蔵庫にしまってくれた?」

「は?」


机の上に置いておいたはずの、私の紙パックのお茶が、知らぬ間に冷蔵庫にしまわれていた。


「俺じゃねーぞ。午前中に椎名が血検のキッド取りに来たから、その時にしまってくれたんじゃねぇの?」

「……そっか」


そう答えるものの、やっぱりそれに手を付ける気にはなれなくて、何となくそのまま流しに捨ててしまった。


本当に些細なことなんだけど、なんだか気持ちが悪い。

気が付くのは全て、自分の勘違いかもしれないと思えるような、本当に些細な事。


きちんと閉めていははずのロッカーが、わずかに開いていたり、机の引き出しに入れていた、まだ使っていない付箋がなくなっていたり。


“気のせいじゃない?”と言われれば、そうかもしれないと自分でも思ってしまう程度のそれを、何となく大事《おおごと》には出来ないし。

だから私は、小さな事に気が付いても、春希にもマコにも、話さないようにしていた。


やっぱり気のせいか、もしそうじゃなかったとしても、いつかは納まるだろうなんて……高をくくっていた。

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