犬と猫…ときどき、君
「――澤! おーい! くるセンっ!!」
城戸のその声に、ハッとして顔を上げた。
「……終わったけど」
向けられるのは、刺々しくも感じる城戸の訝しげな視線。
「あ、はーい。てゆーか“くるセン”って呼ばないで」
「芹沢って呼んでも反応しなかったし」
「スイマセン。でも“くるセン”はやめて」
私の言葉に少し不満げな顔をした城戸は、わざとらしく溜め息を吐く。
「他の奴らは“くるみセンセェ”なんて呼んでるのに、何で俺だけダメなんだよー」
「……何がなんでも。嫌なものは嫌なんだもん」
「じゃー“院長センセー”って呼んでやる」
「それもイヤっ!! てか、名ばかりの院長でしょー!?」
「名ばかりだって、芹沢がここの院長だろーが」
飄々とした態度を取る城戸を、一瞬睨みつけるけれど、
「別に怖くねぇし」
結局、かえってムカッとするだけ。
「そもそも、ここで働くきっかけ作ったのは城戸でしょ!?」
「それ関係ねーだろ」
――そう。
この病院に来るきっかけは、城戸からの一本の電話だったのだ。
私は去年まで、隣町の動物病院に勤めていて、そこはもう“家族経営”のお手本のような病院だった。
ワガママな院長と、利益ばかり気にする奥さん。
従業員が逆らえないのをいい事に、やりたい放題のご令嬢が二人。
休みは週イチ、毎日十二時間以上の労働が当たり前のその環境。
毎日毎日必死に働いても、女医嫌いの奥さんにはイヤミを言われ、ご令嬢のしわ寄せでムダな仕事が倍増。
挙句の果てには、院長の「お前は黙って、コマのように働けばいいんだ!!」発言。
そんな環境の中、心身ともに限界を感じていた私の元にかかってきたのが、城戸からの一本の電話だった。