≡ヴァニティケース≡

 しかし、黒い車体は後輪から煙を上げ、けたたましくスキール音を上げた。止まるどころか、逆にアクセルを踏み込んだのだ。次の瞬間、車体は凶器となって立ち塞がる岡村に突進を始めた。


 彼は咄嗟に体をかわしたが、間に合わなかった。走る車のフロントの一部が、身体の側面に接触した。足が地面から浮きあがり、跳ばされる。岡村のペンダントが、飛んだ。背中から、壁に、当たる。その反動で身体が、路上に、投げ出された。


「岡村ぁっ! 畜生、させるかよ!」


 それまでは控えていた二人が路地から現れた。銘々が頭上に警棒のようなものを振り上げて、走ってくるワンボックスのフロントガラス目掛けて打ち下ろす。


 ガシャンとガラスは粉々に砕け、しかし保護膜に貼り付いて真っ白になった。ドライバーの視界が奪われたのか、耳をつん裂くようなブレーキ音と共に黒いワンボックスが停止する。木に引っ掛かり揺れていたペンダントが、チャリンとアスファルトに落ちた。



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