≡ヴァニティケース≡
「あの事務所がアジトか?」
「塚田さん。車には誰も乗ってません、それに……」
塚田には中島の声が届いていないようだ。事務所に近付き、中を窺うのに余念がない。
「電気は消えているな。奥に引っ込んでるのか?」
すると闇を切り裂いて、建物の陰からエンジンを始動させる音が響いた。現れた車は、塚田と中島の後ろを通り過ぎて行く。テールランプがみるみる小さくなっていった。
「塚田さん! 酒井達にあの車を追わせて下さいっ」
中島が慌てた様子で塚田に縋り付いてくる。
「まさか……」
「ええ、やられました。奴ら、あの車に乗り継いだようです!」
「くそっ。酒井、俺だ。たった今東に向かって走り出したステーションワゴンを追え。色は白! 重信は待機させておけ。俺たちもすぐに向う」
塚田は空っぽになった車を取り囲んでいた仲間を引き連れて、待機していた車に飛び乗り、急いで後を追った。