≡ヴァニティケース≡
「そうですね。すみません、何から何まで」
「また謝る」
「あっ! ありがとうございます、でしたね」
「そうそう、ははは」
「うふふふ」
美鈴は社務所へと向かう短い道程で、写真の場所を離れたことに心から安堵していた。あれほど確認してみたかったこの場所が、どうした訳か今は厭わしかった。
「すぐそこだよ」
「はい」
境内はその理由を尋ねてみたくなるほどひっそりと静まりかえっていて、ふたりの他に人の気配はない。時おり車の音がするだけだった。
「こんにちは。どなたかいらっしゃいますか?」
「どないされはりました?」
太陽の照り返しに慣れた目には、社務所の奥から出てくる宮司の姿は捉えられない。ただ声だけが近づいてくるようにさえ思える。