≡ヴァニティケース≡
「遠慮せんと、どうぞお入りやす」
「すみません。突然で申し訳ないのですが、少々古い話をお伺いしたくて参りました」
「どうぞ、どうぞ」
靴を脱いで廊下に上がり、社務所の受付に名前を記入すると、傍らに神社の由来が書いてある。小さな神社ではあったが、その来歴は千四百年にも遡るらしい。
歴史が有る場所には、それだけに人の思念が染み付き易いと思えるのは気の所為だろうか。
聖謐な空気、滲んだ陰影、足の裏に伝わるなめらかな床の感触。欄間から漏れた明かりが四つ五つ。壁に穴を穿つように佇んでいる。いつ、あやかしが出て来ても不思議ではない。
「失礼します」
石田の背中の動きに合わせて、美鈴も無言で頭を下げた。写真の場所を目の当たりにしたせいか、奇妙な感覚は未だ消えていない。立っているのがやっとな状態だった。