ジェフティ 約束
「……どうして、マスターは断ったりしたの」
「そりゃ、いかにも人を切ってきたって格好してたら、誰だってああ言うだろうよ。それに、血の臭いをかぎつけたごろつきに絡まれる事だってあるんだ。巻き込まれるのは当人たちだけじゃないからな。……私が悪かったんだよ」
「ふうん」
 ラルフは裸足になって風呂場に入ると、湯船の上に浮かんでいた桶で湯をすくい、シェシルの髪についた赤黒い泡を洗い流した。
 もう一度石鹸で髪を洗い始めると、生臭い匂いは消えて、石鹸についていた本来の花の香りが風呂場を満たし始める。足元に一瞬広がっていた泡が流れ去って、小粒のきれいなタイルがびっしり表れると、もう血の痕跡などどこにもない。
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