もう恋なんてしない
「ねぇ、瑠璃さんは…どうしてそう思うの?」

私の言葉に、不思議そうに尋ねる奥様。

「だって…一番近い場所で家元を見て来られた方ですよ?
帰る場所は…そこしかないと思うんです。
花鋏(はなばさみ)以外に、泰如さんが手にするなんて…私には考えられませんから。

もし戻られたら、許して差し上げて下さいね?
きっとご家族が増えて、賑やかになる事でしょうし」

笑いながら答えた。


「本当に泰如は・・・バカな事をしたものだ」

家元はそう言い残し、帰って行った。


断った。

これで、もう緋笙流に振り回されることも無くなった。

喪失感がゼロとは言い切れないけれど、安心している自分がいる。
そう自覚した途端、睡魔が襲ってきた。

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