貴方に愛を捧げましょう


取り敢えず、火照った身体をどうにかしたくて、買ってあったアイスをふと思い出し、取りに行った。

そうして冷たいアイスをひとかじりし、ぼんやりと突っ立ったまま考えた。

このまま自分の部屋に行って寝てもいいけど……少し、気になる。

彼の居所が。


もやもやした気分を晴らしたくて、とりあえず縁側に行ってみると。

庭に“おかしな”光景が広がっていた。


片付けるどころか──何も変わってない様子の、土や草花が乱れた庭。

その中心にいる葉玖は、突っ立ったままピクリとも動かない。

頼りになるのは月明かりだけの、暗闇の中。

佇む様子はどこか異質で、表情は虚ろ。


……というか、そんな事よりも。


その手に持っている、彼の封印を解く際に使った鞘から引き抜かれた刀と。

彼の足元にいる狐に気を取られた。


ちょこんと大人しく座り込む、小さなそれ。

あたしが知っている、常識的で標準サイズの小さな狐に。

けれどよく考えるまでもなく、こんな場所に野生の狐が居るのはおかしい。

……どうしてここに“普通”の狐が居るの。


視線は足元にいる狐に落とされているけど……その瞳は、本当に狐の姿を映しているのかどうか。

だって何の変鉄もない狐と見つめ合って、一体何があるっていうの。


「──…葉玖」


無意識に声に出して呼んでいた、彼の名前。

それに反応して、俯けられていた頭がふっと覚醒したかのように、僅かに上がった。

上がった、けど。

相変わらず視線はどこに向けられているのか……表情も虚ろなままだ。


「何してるの」

「何を、して……」


どうしてあたしの言葉を復唱するの。

本当に、どこかおかしくなったのかしら。

──なんて考えてたら。

そこで突然、葉玖の声音が背筋がゾクリと震えるほどに、低く強くなった。


「駄目だ…──来るな」

「──えっ…?」


まるで怒っているかのように。


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