貴方に愛を捧げましょう


倒された上半身を起こし、まだ何か言い足りなさそうな様子の葉玖と向き合う。


「それであなたの気が済むなら……そうするわ」


素直に負けを認めた方が楽な時もある。まぁ、これは勝ち負けの問題じゃないんだけど。

でも……とにかく。実際に、葉玖の言った通りに出来るかどうかは別として。

こう言えばあなたは納得するんでしょう?


だからといって、嘘をついたつもりはない。

もし約束を破ってしまったら、あたしを叱ればいい。諭してくれたっていい。

隠しきれない感情を極力抑えようとする、理性的なあなたよりも。

落ち着き払った普段の様子から豹変した“激情に駆られる”姿の方が。

あたしは…──好きだから。


「怪我、治してくれてありがとう」


そこで立ち上がろうとすると、掴まれていたままの手をそっと引かれて。

蜂蜜色の瞳があたしを見上げ、無言の問いを掛けてくる。

その様子を見て思わず溜め息をついた。

なんでこうも、すんなり事が進まないかな……。


「お風呂に入りたいのよ。……まだ疲れてるから、休みたい」


かなり長い時間眠ってたみたいだけど、疲れが残っているのか、どこか身体がだるい。

それに色々あって、二日はお風呂に入ってない。

汗でベタつくし、埃っぽいし、足は汚れてるし……。


「──…申し訳ございません。ごゆっくりお身体を休めて下さい」


そこでやっと手を離してくれるのかと思ったけど、そうではなくて。

手を握ったまま立ち上がった葉玖は、小さく笑みを浮かべて。


「私は、お庭を片付けておきます」


──…やっと、名残惜しげに離してくれた。





長風呂をしていた自覚はあるけど、お風呂から出ると、外はもう真っ暗になっていた。

どの部屋も電気を付けていないから、文字通り真っ暗で。

常に傍にいたがっていたはずの彼の姿は、見当たらない。


まだ庭を片付けてるの?

巨大化した狐の姿で、跡形も無くなる程めちゃくちゃに荒らされてしまった庭だけど。

不自然なくらい短期間で沢山の花を咲かせたのに、片付けるのは遅いわけ?

それとも、どこかに帰ったとか。


……笑えない、酷い冗談だ。

お湯の浸かりすぎで頭に熱が上って、変な思考回路に繋がってしまうのかも……。


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