ロ包 ロ孝 2


「栗原司令。新事実です! 大変です。資金の流れが掴めたんですが、反乱軍のです!」

 顔にまとわり付いた煙草の煙を手で払いながら、栗原は半ば呆れ顔で若い参謀へ向き直った。

「おいおいどうした、落ち着け。ちゃんと整理して、解るように話さんか」

 彼はそそくさと襟元を正し、改めて直立不動の姿勢を取り直した。そしてひとつ咳払いをすると、深々と頭を下げる。

「ごほっ、大変失礼致しました」

 若い参謀は持参したPDAを見直して、初めから報告をやり直した。

「諜報部の調査の結果、反乱軍の軍備を支える巨大ファウンデーションの存在が明らかになったんです。民権奪還軍に潜入させた者達からの報告を取りまとめた結果なので、かなり信憑性は高いと思われます」

 灰皿へ荒々しく煙草を押し付けると、栗原は眉を潜めて若い参謀を見詰め返した。

「ううむ。確かに民間からの寄付だけでは、昨今進められている反乱軍の軍備増強の資金源が説明付かない、とは思っていたんだが……」

 参謀は虚空に向かって敬礼しながら声を張り上げる。

「はい。反乱軍の間ではクエスチョンのQ、『Q資金』と呼ばれているようです」

 とうとう陳老人の起こしたファウンデーションの存在が、軍のトップにまで知れ渡ってしまった。

「そうか。では、そのQ資金とやらの首謀者達と、奴らの思惑を引き続き調査させるんだ」

「承知致しました。スペース・ウェイズの内部調査も引き続き行います」

「ああ、宜しく頼む。この月面で『何か』が起こってしまったら、被害は軍部だけに留まらない。ここに住む特権階級の人々を失ったら、地球は経済も文化も何もかもが立ち行かなくなってしまう。何としてもそれは避けなければならない」

 そう言う栗原の言葉には微塵の迷いも無かった。始めこそ、特権階級の擁護に重きを置く軍の任務に自問自答を繰り返していた彼だが、事実地球を牽引しているのは一部のハイソサエティー達に他ならないことを悟ってからは、この『国連軍』の司令という職務に邁進してきたのだ。

「はっ。磐石の態勢で取り組みます」

 その信念の込もった、揺るぎ無い栗原の言葉を聞いて、若い参謀も全幅の信頼と尊敬を以て応えていた。


< 257 / 258 >

この作品をシェア

pagetop