揺れる想い~年下彼氏は小学生~㊤
「じゃあ、まどかさんは何なのさ?」


そう尋ねると、彼女はすぐに手を止めた。

包丁をまな板の上に置き、ゆっくりと俺との距離を縮めて来る。


「私は…あなたの母親よ。母親は、誰よりも息子に愛情を注ぐものなの」


そう言って、そっと俺に抱きついてきた。


香水の匂いが、ツンと鼻につく。

大人の女だという事を思い知らしめる香り。


「確かに、彼女を作りなさいって言ったのは私よ。だって、好きな子の1人もいなかったらおかしいじゃない。母親とこんな関係だから彼女を作らない、じゃ変に思われるもの」


そう言って、まどかさんは唇を重ねてきた。

とりあえず、俺はそれを受け止める。


半年前に父さんが死んで、後妻だった彼女と2人きりになってしまった俺。


父さんも本当の母さんも、元々身寄りが無い者同士だった。

祖父母も、ましてや親戚なんてものも無い。


母さんが死んで。

父さんの会社の当時部下だったまどかさんが、何年かして後妻となった。


その父さんも、交通事故で亡くなってしまって。

俺にはもう、まどかさんしかいないんだ。


彼女に捨てられたら、小学生の俺は施設に行くしかない。

施設に行ったら、きっと野球も今のようにはできないだろう。


約束…したんだ、母さんと。


甲子園に行くって。

母さんを連れて行ってあげるんだって。


だから。

俺は、施設に行くわけにいかない。


その為には、この人の曲がった愛も受け入れなくてはいけないんだ。
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