闇夜に笑まひの風花を
どうして、あんなことを言われなくてはいけないの。

私が何をしたって言うのよっ!

何も知らない。
杏は、何も覚えていない。

それは"杏"が望んだことではないのに、どうして責められなければならないっ!?

もう、何も分からなかった。
何が嘘で何が本当なのか。
考えることすら億劫だった。

__あのとき呼んだのは、誰?

声にされなかった名。
杏の知らない彼女自身。

ねえ、遥……。

あなたが好きだと言ったのは、誰……?

『坂井杏』か、それとも彼の遊び相手をしていた彼女か。

もう、何もかもがめちゃくちゃだった。

息をすることさえ苦しい。
涙はもう枯れた。

__頭の中で、誰かの笑い声が響く。

気味が悪い。
けれど、それを受け入れたら楽になれる気がした。

杏が伸ばした手を、真っ黒な手がぎゅっと握る。

その瞬間。
暗闇のような何かに染められた気がした……__。

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