闇夜に笑まひの風花を
__
闇が深い。
月の光は細い。
星が疎らにしか見られなくなったのは、いつからだろうか。
「よろしいのですか、王子」
明かりの少ない部屋の中、カーテンに隠れるように男が佇んでいた。
暗い色のマントを頭から被っていて、顔は見えない。
フードの隙間から、銀色の髪が零れた。
「あの女を生かしておいても?」
その言葉に、問われた王子は鼻で嗤う。
「お前も知っているだろう。
あの女は殺せない」
「それは、どの意味合いで?」
わずかな月光を浴びて、男の銀髪は自ら発光しているように見えた。
その妖しい輝きを映して、王子の目がきらりと光る。
「全てだ。あの女には、この国のために役立ってもらう。
粋な計らいをしたものだな、あれの親は。まさか殺せないように手を打つとは」
その口元に浮かぶのは、酷薄な笑い。
「さて、それはどうでしょうな」
男がそれを見てなお、声はひどく平坦だった。
王子はとても可笑しそうに喉で嗤った。
「唯一の"末裔"だ。その全て、我らのために捧げさせる」
まるでその手の内に、全てを回す運命の歯車があるかのように……。