闇夜に笑まひの風花を

*****

「舞踏会の参加を辞退するですって!?」

その日、職員室に驚きの声が上がった。
あまりの大きさにある者は何もないところで転び、またある者は手元が狂った。

そして、その声が冷静、厳粛で有名な花姫専門の教師だったものだから、みんなが何事だと集まって聞き耳を立てた。

その様子を知らない教師は、頭痛がするかのように額に手を当てた。

「お待ちなさい。一時の思い込みの行動は未来の選択を誤るわ。
相談に乗るから話してみなさい。あなたのような人が、どうして?」

理由は訊かれるだろうと覚悟していたが、結局うまい嘘が思いつかず、杏は答えに詰まった。
その間に、教師は追及を続ける。

「あなたはドレスの配給制度をわざわざ不要だと撤回しに来ていますね?もしかして予定が狂ってドレスがないのですか?」

「いいえ。それは身分のある親切な方のご好意で間に合っております」

杏は顔の筋肉を総動員して微笑を貼り付けた。

あの王子を親切な方などと言わなければならないなんて……そうでもしないと顔を歪めてしまう。

けれど教師は、顔を曇らせた。
身分や財産があっても、出し渋りや流行の遅れがあったら困る。

「けれど、王族の方の御前に参るときのものなのですよ?その方は確かなのですね?」

「はい。その件に関しては心配ご無用です」

だって、現・王子ですから。

杏は心の中で遠い目をする。

「では、相手役が見つからないのですか?」

いよいよ核心に迫られ、杏は余裕をなくした。

「いえ、パートナーは決まっております。けれど……」

「けれど、なんです?」

教師は扇をぱらりと開いて口元を隠す。
その射るような視線に負けて、彼女は本当のことを言うことに決めた。
ここで誤魔化してもボロが出るだけだ。

< 40 / 247 >

この作品をシェア

pagetop