闇夜に笑まひの風花を
杏は舞う。

誰かに、何かを伝えたくて。

伝えたい人も、思いも、自分の中で具体的に明確にはしない。

たった一人に伝えたいことではないから。

見ている人皆に、伝わればいいと、心を込めて舞う。

例えば、秋の寂しさ。
落ち葉の温かさ。
夏との別れ。
冬との再会。
水の冷たさ。
月の柔らかさ。
木枯らしの囁き。
冬眠する動物たちの静けさ。
それらを見守る、
一輪の秋桜の切なさ。

それらはすべて、人間の一生に当てはまる。

独りの寂しさ。
人の温もり。
大切な人との別れ。
友との再会。
悪意の冷たさ。
眼差しの柔らかさ。
人々の囁き。
集中しているときの静けさ。
それらを見守る、空の切なさ。

感じることは人それぞれ。
思い出すものも、人それぞれ。

それでもいい。
どうか、伝わって。

あなたのこと、大切なの。

私は、私らしく、生きていきたい。

私は自分で未来を選んで、生きていくの。

一輪の秋桜。
冷たい風に吹かれながらも。
それでも強く。

咲き誇る__。


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