闇夜に笑まひの風花を
*****

城内はやはり人気が少なく、陰気な様子だった。

これから先、ここが私の家となる。

感傷的になる自分を、杏は頭を振って諌めた。
……未練だとか、切ない想いは置いてきた。

今から杏は、国王に忠誠を誓う。

城に着くと荷物を置く間もなく、杏は国王陛下が呼んでいると聞かされた。
杏が向かっているのは玉座の間。
陛下と謁見できる部屋だ。

杏は扉の前で深呼吸をした。
そして、重い音を立てて扉が開く。

その部屋はさほど大きくはなかった。
しかし、調度品が全くなく殺風景で、扉の前を始め、至る所に兵が配置されていた。
その部屋の奥、幾段か高くなっているところに玉座がポツリとある。

待っていろ、と一声掛けられて、杏は玉座の前に膝をつく。
床から冷たさが伝わって、彼女はぶるりと震えた。

あまり待たないうちに、玉座の後ろの扉が開く。
杏は伏礼をして頭を下げた。

足音からして、入ってきたのは三人。

「__面を上げるが良い」

低く腹に響く声だった。
彼の言う通りに、杏は膝を床についたまま、顔を上げた。

玉座に座るのは、中年の男。
偉ぶって、そこに座っている。
この国の国王だ。

玉座の左右に、二人。
こちらは若く、見知っている青年。
裕と__

……え?
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