添い寝屋

琴葉

「だれかに起こされるの、久しぶりだったの」

涙をこするから、ますます娘の目はパンダのように
なさけない顔になっていた。


「あんた、すごい顔になってるぞ」

渡したティッシューでチンと鼻をかんで
チンマリと椅子に座ってる姿は、
まさに小動物そのものといった感じだった。


何か飲むかと言う問いに、ココアがいいな・・・と言われ
そんなもん無いと言いながら俺はコーヒーを入れるために
立ちあがった。


ドリップポットに湯を沸かしながらドアの向こうを伺うと
ポーチの中から取り出した鏡を見ながら、仰天している
娘の様子がチラリと見えた


「これ飲んだら帰ってくれよ」


お子様だから砂糖とミルクもいるんだろうな

と思いながらカップを二つ用意した



「あたしね。『ことは』です」


突然の発言に動揺していると


「『ことは』って名前。
 コーヒーのお礼にあたしの名前を教えてあげるよ。」


ブラックとミルクたっぷりの
二つのマグカップを持ちながら
俺は『ことは』という娘の横に座った。


ミルク入りのカップを大事そうに飲む娘の姿が
捨て犬がミルクを飲んでいるみたいに見えてきて
さっきのパンダ顔といい、
子犬みたいに飲んでる姿といい

この寒空の外へ追い返すのが少しだけ可哀そうに思えてきた。
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