トマトときゅうり


 お茶を出しに行くと、彼女は椅子に座ってきょろきょろしていた。

「何かご入用ですか?」

 ハッとして、くるりと振り向いた。「あ、ごめんなさい、きょろきょろして」

 笑った顔が、また可愛い。うーん、本当お人形さんみたい。

 そこで、ふと思い当たった。

「長谷寺様、もしかすると、担当は青山ですか?」

 一瞬きょとんとした顔をして、それから小さく頷いた。

「あ、そっか。あの営業さんはそんな名前だっけ。もう楠本さんばっかに注目しちゃってたから」

 ・・・ん?

「ここで働いてるんだーっと思ったら興味が湧いちゃって。楠本さんのお顔見にきちゃったんです」

 てへへと笑う。

 何とか給仕をして、微笑みを浮かべたまま、私は頭を整理した。

 ・・・ああ、そうか。

 この人、青山さんと一緒に契約に行ったきゅうりが気にいっちゃったんだ。

 私は見たことないけど、仕事中の営業マンの集中力は凄いのだろう。表情も柔らかいんだろう。そっかあ・・・そりゃ格好良かっただろうしね・・・。

 でも、会社まで来るんだ、とその行動力に感心すらした。

 私はそんなこと、逆立ちしたって出来ないに違いない。

「あの、青山は呼ばなくて大丈夫でしょうか?」


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