トマトときゅうり


「・・・俺の好みじゃねーな」

 ではでは。あなたの好みはどんな人?!・・・とここで聞けるくらいなら、私の人生はもっとうまくいってた筈だよね、と何も突っ込めない自分に凹む。

 ・・・あーあ、私ったら・・・。

 勝手に凹む私には気付かずに、きゅうりは続けて言った。

「・・で、何でか今日ここで大会あることを知って、また保険の話がありますって来てたんだよ。プライベートでは会わないって前に断ったから、仕事に絡めたら断れないと思ったんだろう」

「…はあ、凄いですね」

「うん、流石に驚いた。でも喜多川さんと歩くトマトをみつけた時に、あの子もお前が事務なのは知ってるし、会社で会議かなんかあることにしちまおうって思ったんだ。それで、捕まえにいった」

 ―――――はい、捕まりました。確かに。・・・超強引でしたけど。

 つかまれた腕の感触を思い出して腕をさすりそうになる。寸前で気付いて何とかせずには済んだ。

 身を起こして、自分でくしゃくしゃにした髪を整えながら、きゅうりが笑った。

「無事に逃げられた。ありがとさん」

 とたんに呼吸がしにくくなる。

 ううう・・・・この笑顔をみてちゃいけない。

 早く帰ろう。自分の部屋へ。

 胸が痛くなって、きゅうっとする。涙が浮かびそうになるのを気付かれないように下を向いたけど、声は頑張って明るい声を出した。


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