トマトときゅうり


「判りました。でももうお役ごめんですね、私、帰り――――――」

 カチっと音がして、ドアがロックされた。思わず横をみると、きゅうりが片手でベルトを締めながらエンジンをかけている。

「だから、ご飯だって。いくぞ」

「へ?」

「ベルトしろよ」

 え?・・・ええ!?

 呆然としている間に、きゅうりはさっさと車を動かしてしまう。慌ててとにかくシートベルトをつけた。

「まままま待って下さい!私帰るんですけど」

「昼、もう済んだのか?」

「・・・まだですが、一人で食べます。楠本さんまだお仕事でしょう?どうぞここでおろして下さい」

「駄目」

 だ、駄目?駄目って何よ、駄目ってーっ!!

 むきーっ!!久々の怒りに目の前がチカチカする。こちらの決意を簡単に揺るがしてしまうんだから!私の意思はどこにいったのよ~!

 これだからもう!身勝手でワガママなエリートは~っ!!

「何くいたい?」

「・・・・」

 ああ~・・・こちらはエネルギーを消耗するばかり。涼しい顔して運転しているきゅうりをみていると、相手にしても無駄だと悟る。

 結局私はこの車から逃げられないし、口でも力でも勝てないんだろう。

 ・・・頭の出来も違うし。うううう・・・。せめてドギマギして赤くならないようにと、反対側を向いて窓の外を注視することにした。


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