あやまち
「少し黙ってろよ」


「黙ってられないっ。麻希、泣いてたんだよっ?」


「はぁ?」




少し目を見開きながら、あたしを見下ろしてくる渉の表情からは、なにも感じられない。




「何かあったから、あーやって泣くんでしょ?」


「……」




しばらく待ってみても、渉の表情は全く変わらなくて……




「あたしじゃ頼りないかもしれないけど、相談には乗るよ?」




そう言った瞬間、渉は明らかに不機嫌な表情に、変わった。



そのままあたしから視線をそらし、大きく息を吐いたあと、包丁をまな板の上に置いた。




「……うぜぇ、俺帰るわ」


「は?ちょっ、渉っ」




そのまま、玄関まで一直線に歩いていった渉は、こっちに振り向くどころか、声すら発することなく、そのまま帰っていってしまった。


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