《短編》空を泳ぐ魚
「…なぁ、清水。
いつになったらノート出してくれるんだ?」


月曜日、本当に遅刻してきた清水に俺は、こんな台詞で話しかけてみた。



「…いつかは出すよ。」


だけど、それだけ言った清水はさっさと教室に入ってしまう。


まるでいつもと変わらない日常。


別に示し合わせてそうしてるわけじゃなく、俺も清水も至っていつも通りなだけ。


あの夜は、一体何だったんだろなんて考えて、ちょっと悲しくなっちゃってる俺。


仕方なく俺も、追いかけるように教室に戻った。




「…清水。
進路の紙出してないの、うちのクラスでお前だけだぞ?」


「へぇ、そう。
じゃあ適当に、“お花屋さん”とか書いて出しといてよ。」



小学生じゃねぇだろ。



「…俺が書いてどうすんだよ。
せめて、就職にするのか進学にするのかとか、それだけでも良いから書いて出せ。」


言う俺を無視して、清水は今しがた机の横に掛けた明らかに軽そうなバッグを持って立ち上がった。


そして、まだ言い足りない俺を残して教室を出る。


相変わらず、逃げてるのか留まることが嫌なのか。



「清水さん、受験生ナメてるとしか思えないよね!」


「いや、あれでこそ清水だろ。
もしかして、SMクラブに就職決まってたりして!」



いや、清水にSM癖はなかったよ。


とは言えなかった。


あーあ、悲しい片思い。


なんて自分自身を憐れんじゃってる、寂しい俺。




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