光~彼との夏物語~

「なんでそんなこと…」
「いいから、名前。」

「…翡翠。」

男の偉そうな態度に苛立ちを感じながらあたしは名前を教えた。

「俺は圭って呼んで。鍵は俺が開けるからここにいて。」
「え…」
男は静かに笑みを浮かべるとドアのほうへ歩き出した。

何も使わず開ける気なのだろうか。
鍵なんか持ってるはずもないのに。
そんなことを考えながら、あたしはただボーっとドアの前に移動する圭の背中を見ていた。

ドアの前まで行くと圭はあたしの視線に気付いたのか振り向き口角を上げた。
そしてドアと向き合うとドアノブを握り回し始める。

鍵がかかっていたはずのドアは圭が手前に引くと、キィっと不快な音を立てながら開いた。
最後まで圭がドアを開けるのを待たず由香莉があたしのところへ駆け寄ってくる。

「翡翠…っ」

由香莉があたしを強く抱き締める。
だけどあたしはそんなこと知らずただ圭を見つめていた。
何も使わず鍵を開けた?
ちゃんと鍵がかかったことをあたしは確認した。
それなのに何故?

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