光~彼との夏物語~

「翡翠…。」

由香莉から名前を呼ばれてあたしは我に返った。
今は圭のことをどうこう考えている場合じゃない。
あたしが自殺しようとしたんじゃないと由香莉に思わせなければ。
じゃないとまた由香莉に付きまとわれる。

この孤児院に来てからあたしが自殺しようとすると毎回由香莉に止められ、しかも次の日は何処へ行くにも由香莉がついてきてあたしを見張っていた。
もし今日のことが由香莉に知れたらまた由香莉はあたしについて回るだろう。
そんなのもううんざりだ。

「由香莉…あたし死のうとしてないよ。大丈夫だから。」
あたしが小さな声でそう言うと由香莉は顔を上げた。
その顔はとても嬉しそうで少し胸が痛んだ。
「でも、じゃあなんで屋上なんか…」
「翡翠」
不思議そうな顔で問いかける由香莉の声を遮り圭があたしの名前を呼んだ。

「あの人…誰?」
由香莉が怪訝そうな顔をする。
「え…っと…」

何て言おう。
あたし圭のこと何も知らないのに…
説明しようがない。



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