恋は時限を越えて
序章
茫洋たる雪原に、金髪の男性が佇んでいた。

空を見上げ、白い吐息が息をするたびに口からこぼれる。

すでに手は赤くなっていて鼻も少し赤かった。


「女神アスタル、剣はどこに…あるのですか…」

天を仰ぎ両手を掲げる。

天からの声が聞こえるわけではない。

男性は手をゆっくりと降ろし、降ってくる雪に触れる。

寒さで感覚はない。
だが、その雪を眉をよせながらただ見ていた。

手に積もる雪をグッとにぎりしめ、唇を噛み締める。

「俺は…なんて無力なんだ…」

消え入りそうな声で、男性は悔しそうに呟いた。

遠くで、自分の名前を呼ぶ者達の声が聞こえる。

―やめてくれ…俺を呼ぶな…―

そう何度も叫びたい。
だが、"立場"が許されないのだ。

自分は何もできない。
無力な奴は必要とするのか?
必要ではない。

頼む、必要としないでくれ……。
何もできやしない。

自分には、この国を救う力がないのだ。

「剣さえ…あれば…」

ない物をずっと惜しむように男性は呟いた。
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