私立聖ブルージョークス女学院2
June
 梅雨が近づいてきた蒸し暑い日の午後、環は科学部の顧問補佐として片山と一緒に校舎の一つの屋根に上る羽目になった。屋上に太陽光発電パネルを設置するためだった。去年の東日本大震災以降の電力不足はこの地域にも及んでいて、科学部の生徒たちが自家発電装置を学校にも導入してはどうかと提案したのだ。
 とは言え、女生徒だけで屋根への設置をやらせるのは危険だという事で、環に加え片山も駆り出されたというわけだった。三階建の屋根の上へは屋根裏部屋から出られるようになっていたが、さすがに環も下を見ると脚が震えた。
 女生徒たちは屋根への出口で待機させ、環と片山の二人で畳一枚ぐらいの大きさの太陽光発電パネルを南向きに取りつける。その作業の最中、片山がふと背後の木の茂みの辺りを振り返った。
「片山先生、どうかしたんですか?」
 環はいぶかしく思って訊いた。片山は元の方へ向き直り、少し顔をしかめて答えた。
「いや、なにか最近、誰かにじっと見つめられているような気がしてしょうがないんだよ。いや、まあ、気のせいだろうとは思うんだが」
 さっき片山が目をやった方向に環が視線を向けると、木の陰から小柄な女生徒が一人、逃げるように走り去って行くのが見えた。
 環はピンと来た。多分、片山の気のせいではなく、本当にストーカーみたいに彼を見つめている女生徒がいるのだろう。やれやれ、と環は思った。環も想いを寄せているぐらいだから片山ももてないタイプではないが、女子高生が熱を上げるほどの超美男子というわけでもない。
 女子校にいると普段周りに男がいないので、比較的若い男性教師に異常に疑似恋愛感情みたいな物を抱く生徒がいると聞いていたが、どうやらそういう相手に片山は目をつけられてしまったらしい。
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