【完】 After Love~恋のおとしまえ~


「――で、頼みたいことって何だったんだ?」

翔さんがドイツに戻った次の週末、サトシが、カナさんとその息子さんを連れて横浜に遊びに来ていた。

海辺の公園のベンチに座り、芝生の上で遊ぶカナさんと息子さんの姿を眺めながら、のんびりと缶コーヒーに口をつける。

空には雲一つなく、規則正しく寄せては返す波の音が心地よく耳に届いていた。

「小倉さんに頼んだのはね、シェリーの散歩。小倉さんは誰かに必要とされたいみたいだし、老夫婦は翔さんの代わりに散歩をしてくれる人を探していたから、ちょうどいいでしょ? 翔さんがいなくても、一人で引きこもりからのリハビリ散歩ができるし」

あのとき、私はメールで翔さんにそれを提案したのだった。

「でも、そんな変な奴に犬を任せて大丈夫なのか」

「それは大丈夫みたい。私も後になって気になったけど、翔さんが言うには、小倉さんは本当に犬が好きで、シェリーのことをすごく可愛がっていたっていうから」

犬の散歩をしていれば、犬連れの人同士で話す機会もあるだろう。

そうして、外の世界に慣れていけばいい。

まぁ、そこで知り合った人にまたしつこくしないように祈るのみだけど。
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