【完】 After Love~恋のおとしまえ~


「しかし、友里は最初、グラスの水をかけてやろうかと思っていたくらいなんだろ? どうして彼女に対してそんな寛大になっちゃったわけ」

サトシが、からかうような視線を投げてきた。

「最初は、途中で出て行って嘘をついたこと謝らせるつもりだったの。でも、なんか考えちゃったのよね」

「何を?」

「今の私があるのは、周りで支えてくれる大勢の人たちのおかげだから。もしも私にそういう人が誰一人いなかったら……十年以上も一人ぼっちでいたら、やっぱり心はすさんで、おかしくもなるかなって」


あの小倉さんの母親も。

長年引きこもっている娘がいたら、その心痛は計り知れないものだと思う。

そんな娘が嬉々として出かける姿を目にしたら、「もう相手が既婚者でもなんでもいい。楽しそうに出かけてくれるのなら」と思ってしまうのも仕方ないのかもしれない。

追いつめられて藁にすがって、その藁を取り上げようとした私に牙を向けたということなのだろう。

きっとそれだけ、心が病んでいるのだ。
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