私は猫



次に目を開けたときも、私の生活は何一つとして変わっていなかった。



「おはよう」



この返事のない挨拶や、小さい植木鉢に咲く花、コーヒーの匂いまで、全部今までどおりだった。



昨日までのことを忘れ、私はホステスとしてまた一皮向けたような気分だった。



♪♪♪♪~



「もしもし」



「ヒナ?おはよう」



「おはようございます」



この毎朝のママからの電話も変わらなかった。



「あなた昨日、南さんを駅まで送っていくって言ったきり、帰ってこないから心配したのよ」



あ…そうだった



「すみません」



「元気そうならいいわ。…ねぇ、南さんと何かあったのかしら」



「いいいいいいえ!何にも!途中、南さんが寝ちゃってホテルのフロントの方呼んでそれで…」



「ああそうなの。昔からそうなのよね。お酒飲むとすぐ寝ちゃうクセ」



「そうだったんですか」



電話越しにママの笑い声が聞こえた。



私はため息をついて、電話を持ち替えた。



「掃除やらなんやら、昨日は菜々子がやってくれてたみたいだから、ヒナからもお礼言っておきなさいよ」



「菜々子さんがっ」



私はつい大きな声を出してしまった。



「ヒナもいよいよか…とか言ってたわ」



「わ、何ですかそれ。完全に誤解されてるじゃないですか」



「っていうことは何にもなかったのね。…よかったわ」



そのママの言葉に私は申し訳なくなった。



昨日のことは事故。



南さんが酔っていて、私を結衣さんと勘違いしただけ。



───そう、ただ、それだけ。



私はこのことは誰にも話さないでおこうと決めたんだ。



「大丈夫ですから。…とにかく昨日はすみませんでした」



私の今日のお昼ごはんを今すぐ作り始めることにした。



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