あかいさくら
はじめまして
「赤い桜もあるんだね」

 公園でお昼を食べていたら、聞こえてきた言葉。

「ほんとだねー」

 まだ少し寒い季節だから、ベンチに座ってわざわざ食べようという人はいない。桜が咲くのには少し早過ぎる、あれは梅の一種だ。
 訂正すべきか迷いつつ、声の主を探す。
 すると、少し離れたところに幼稚園の年長さん位――およそ五歳位に見える男の子と女の子がいた。顔が似ているから、双子かもしれない。
 近くに保護者もいないから、おせっかいだと分かりつつも近づいて声を掛ける。

「それは、桜じゃなくて、梅だよ」

 私の声で振り返えってこっちを見た二人は驚いた顔をしていた。
 悪いことをしてしまったかもしれない。

「こんにちはー」

「梅なんだー」

 返事をしつつ、しっかりしてるんだなぁと感心する。挨拶が出来るのは大切だ。そのまま大きくなって欲しいと思った。

「そう。桜にも赤い花があるけど咲くのはもう少し先なの」

「そうなんだー」

 物わかりがいい子らしい。

「でも、梅ってなーに?」

 ……ちょっと残念。

「梅干って知ってる?」

「すっぱいのー」

「ちぃ、食べれなーい」

「その梅干しの赤ちゃんみたいなものなんだよ」

「へぇー」

 納得したように頷いた二人。分かって貰えた様だ。
 そういえば、と大切なことを思い出す。

「お母さんか、お父さんは?」

「お仕事!」

「そっか、じゃあ二人だけで来たの?」

「うん」

 それはまずいだろう……。

「お家はどこ?」

「おうち、近いよー」

「知らない人におうち教えちゃいけないって言われたー」

「そっか」

 思わず苦笑いをしてしまった。
 ふと時計を確認してみると、約束に間に合うギリギリの時間だった。

「じゃあ、お姉さん行っちゃうけど、二人で大丈夫かな?」

「平気だよー」

「ばいばーい」

「ばいばい」

 手を振って、子どもたちから離れる。

「またねー」

 遅れて聞こえてきた二つの声に、少し笑う。
 振り返って私もまたねと返した。
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