あかいさくら
「あのね、桜っていつ咲くの?」

「もう、いっぱい待ったよ」

 二週間しか過ぎていなかったけれど、二人からしたら楽しみなのに、まだ花が見当たら無いのが不満といった感じなんだろう。

「桜の花のつぼみは膨らんできているから、もうすぐだよ」

「ほんとに?」

「本当だよ。見に行ってみようか?」

「うん」

 ブランコの反対側にあるから、ちょっと歩かなければ桜は見れない。蕾は結構大きくなっているせいか、遠目から見ても分かるようになっていた。木の茶色でも、葉の緑でもない色の粒が枝に沢山付いている。

「これが桜の花だよ、ピンク色になってきているでしょ」

「うん、ほんとだねー」

「もうすこしだねー」

 顔を見合わせて、二人は楽しそうに笑った。

「桜干しは無いの?」

 ゆー君は、突然そんなことを言った。梅干しがあるのだから、桜干しもあるのだろうと思ったらしい。

「聞いたこと無いなあ、でも、桜の花をお菓子にしたり、お茶にしたりはするみたいだよ」

「食べられるんだー」

「食べてみたい!」

 すごいね、と声を合わせて、はしゃいでいるのを見ていると、突然音楽が流れた。私の携帯電話だった。


 着信は待ち合わせている相手からで、約束の時刻から三十分過ぎていた。マズイ。
 ごめんねと断って電話に出る。

「時間過ぎているけどどこにいるんだ!」

 出た途端の第一声がとても大きくて、思わず耳から遠ざける。

「……おい、聞いてんのか」

「ごめん、今公園にいるの。ちょっとうっかりしていて……」

「そっち行く」

「え、いいよ、今から行――」

 言い切る前に、電話は切れていた。相変わらずせっかちだ。
 でも、これから公園に来るというのならこの子供たちに会わせてみるのも面白いかもしれない。

「電話終わったー?」

「相手はだーれ? 彼氏?」

 思わず苦笑いして、違うよって答えた。

「友達なんだ」

「へぇー」

 二人は同じ言葉を発した。だけど、ゆー君は納得したような顔。ちぃちゃんはニマニマとした顔でいて、二人の表情は全然違った。

「これからここに来るけど、一緒に遊んでみる?」

「んー、いいよ」

「会ってみたーい」

 さっきの表情のまま、嬉々としてちぃちゃんは言った。まったく、ため息を吐きたくなる。
 それじゃあ呼びに行ってくるねと、二人をその場に残して、そろそろ入り口にやって来るだろう友人を向かえに行った。
 これはちょっとしたいたずらだった。
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