水鏡
 母親だという人の笑顔や、父親だという人の笑顔は、いつも作り笑いで、少年にコマンド(命令)を打ち込むだけでしたから、一緒に微笑み合うという体験をしたことがなかったのです。

「どこから来たの?」

 少年は、はじめて自分のほうから尋ねました。

「私は、ずっと、ここにいるのよ」

「この近くに住んでるの?」

「そうよ」

 少女は、オルゴールのような心地よい声で話します。

「あなたはどこから来たの?」

 少年は、悲しそうに首を振ります。

「気づいたら、ここにいたんだ。持ち主に捨てられたんだよ。きっと……」

「あら、そんなことはないのよ」

 少女は何もかもわかっているかのように、きっぱりといいました。



 それから、しばらく、すっかりうちとけた少年と少女は、時を忘れて花を摘んだり、かけっこをしたり、無邪気に遊びました。



 少年と少女が湖のほとりで、心からお互いを受け入れた笑顔を交し合ったときでした。

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