寂しがりやの猫
「奈都、お仕事辞めたんなら、もう少しゆっくり居られるんでしょう?」

三が日を過ぎた4日の夜、母親が不意に言った。

「ああ、うん。でも職安行かなきゃなんないし、半ばくらいには戻るよ」


洗い物をしながら答える。

母親は そう、じゃ急がなきゃ、とイソイソどこかに電話を始めた。


また お見合いの話か… と ちょっとうんざりしかけたが、まあ人間なんてどこでどうなるか判らない。
私があの田村みたいな男に惚れるなんて 去年のお正月には 考えられなかった。

「お母さん」

「え」

電話を終えて またソワソワしている母親に声をかけた。


「お母さんは 結婚して良かった?」


「あら、やあねぇ。何?急に」

「だって お母さん 私に結婚して欲しいんでしょ?」


「そりゃあね。奈都は 一人っ子だし、私達が死んだらほんとにひとりぼっちになっちゃうでしょ?」


「ひとりぼっちにならない為にするの?結婚て」


「そういう訳じゃないけど… 」

でもね、奈都、と 母親は 急に神妙な顔つきになった。


「たった一人の人に出逢うか出逢わないかで、女の人生って ほんとに変わるもんなのよ」
< 139 / 214 >

この作品をシェア

pagetop