寂しがりやの猫
時間は ちょうど 夕方六時。
定時なら もう終わる時間だけど、田村は営業だし、新年の挨拶周りで まだ外だろうな。

色々 予想しながら。タイミングを外さないように願いながら。

私は 田村に電話をかけた。



『はい。田村です!』

大して呼び出し音も鳴っていないのに、いきなり田村が出た。

「わっ!ごめん、電話待ちとかしてた?」


『いえ。大丈夫ですよ?中河原さんでしょう?』


「あ、はい」


『明けましておめでとうございます』


「あ、おめでとう…」

なんだか 随分と テンションの高い田村に驚いた。

『俺も 電話しようかな、と思ってたんです』


― え…なんで…?

「そうなの?なんか用事だった?あ、仕事で聞きたいこととか」


『いえ。ただ中河原さんが そろそろ寂しがってるんじゃないかと思って』


「な、なんで…」

トクン、トクン…と心臓の音がうるさい。


『会いませんか?』


「あ、うん…」


『俺、今年、バタバタしてて 初詣に行けなかったんです。良かったら 付き合って下さい』

「うん、いいよ」

約束して 電話を切った。
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