寂しがりやの猫
「俺、ほんとは 奈都さんが今日、来てくれるかずっと不安だったんです」

田村は 安心したように話し出した。


「そっか」

私は ハンカチで涙を押さえながら田村を見た。


「待っててくれるって言ってたけど、やっぱり松永さんに心変わりしちゃうんじゃないかって…。

でも 本当に 奈都さんが選んでくれればいいって思ってました。狡いけど」


「うん」


「俺、チビだし顔も悪いし、奈都さんに相応しくないのは 判ってたから」


田村が そんな風に言うなんて意外だった。
「いつも落ち着いてて自信満々に見えたけど?」

私がクスクス笑うと まさか、と田村は苦笑いした。


「正直に言うと 市川と同じくらいの時から 奈都さんに惹かれてました。 だから、どうやって俺のほうを向かせるか 色々頭、使ったんです」


「え~ そうなの?」
そんなこととは知らずに、まんまと罠にかかってしまった。

― なんだ、なんだ、色々悩んでバカみたい。

やっぱり 田村は 恋愛の達人だったのね、と変なことに納得してしまった。
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