寂しがりやの猫
田村は なんだか 以前より男っぽくなったように思えた。

ヒゲのせいかと思ったが、肩幅ががっしりして 背中も広く逞しくなっていた。

「向こうで暇だったんで 走ったり 泳いだりしてたんですよ」
田村は、ちょっと振り返って笑ってくれる。
二人で普通の定食屋に入った。
ご飯と味噌汁、鯖の煮付け、ほうれん草の胡麻和え、冷や奴。お新香。

田村は 凄い勢いでそれを平らげて 満足そうに ほうじ茶を飲んだ。

「和食 恋しかった?」

「そうなんです。かなり 我慢してました」

田村は 優しく笑うと 不意に私の左手を取った。

「え、なに」

「9号で大丈夫なんですか」

「え」

田村は 私の左薬指に ポケットから取り出したシルバーのリングを嵌めた。

「お土産です。すいません… 安物で。でも10年後には 奈都さんにぴったりの凄いダイヤのやつ プレゼントしますから」

「バカ… そんなのいらないよ…」


私は また泣きそうになって田村の手に右手を重ねた。

「結婚して下さい」

田村は 私の手を握り返した。

「はい…」

化粧が崩れてもう台無しだった。


< 211 / 214 >

この作品をシェア

pagetop