寂しがりやの猫
朝。会社までの道を歩いていると後ろから声を掛けられた。


「奈都!」

振り返ると仲澤が手を上げて走ってくる。

― あーあ、あんなに必死になって。クスリと笑うと 仲澤は 私の腕を掴んだ。

「はぁ…はぁ… キツ…」

「ばーか、朝からそんなに走るから」

私は 仲澤の背中を擦ってやる。


「だってさー、奈都 こないだ急に帰るって言うし、あの後なかなか話す機会も無かったし。俺 もう嫌われたのかと… あ、忘れないうちに連絡先交換して」

仲澤は 携帯を取り出した。

「ん。判った」

二人で赤外線を飛ばしあっていると おはようございます、と声を掛けられた。


「あ…田村」


「おはよう」

仲澤が爽やかに挨拶する。

田村は ペコッと頭を下げて先に行ってしまった。



「アイツってさ」

「え?」


「今年の新入社員だろ? ちょっと面白い顔だよなー」

「そうかな」


私は なんだかムッとする。


「でも 仕事も良く出来るし、優しいし、気が利くし、友達思いでいい子だよ」


「へえ…」


仲澤は 驚いて私を見た。


「何?奈都 もしかして惚れてんの?」


「ばっ!バカ!そんな訳ないでしょう!」

カァ…っと熱くなり 足早に歩く。


「ごめん!冗談だって。怒んなよ。全く 変わんないよな、その姫体質」

「姫?男体質の間違いでしょ」

私は カツカツと仲澤を振り切って歩いた。
< 73 / 214 >

この作品をシェア

pagetop