不運平凡少女が目立つ幼なじみに恋をした。
時計の針の音だけが響く部屋。他の音は何も聞こえなくて、可笑しくなりそうだった。
先生が出ていく前に置いていった夕食は食べる気になれない。
1人でぼーっとしているとき、ガラ、と保健室の扉が開いた。
「心ー。」
よく知る声に視線を向ければ、体操服姿の理来。
「もう大丈夫なのか?」
心配そうに顔を覗き込んでくる彼から、少しだけ汗の匂いがした。でも、嫌じゃない。むしろ安心する。
「...だいぶよくなった。ありがとう、理来。」
へらりと笑えば、理来はばっと視線をそらし「お、おう。」と頷く。
「熱は?」「38度。」「寝ろ!」「...うーん、じゃあ、寝るまでここにいてくれる?」
シンとしてる保健室に1人いると、どうしても不安になってしまう。少し恥ずかしかったけど理来に頼むと理来は顔を赤くしながら頷いた。
...顔赤くする要素、どこにもなかったと思うんだけどなぁ。
「あ、お前夕飯食べてないだろ?」
「食べる気になれなくて。...理来は食べた?」
「いや、まだ。さっき部活終わったとこだから。」
理来は少し離れたテーブルの上に置いてある夕食のトレーごと持ち、私の前に差し出した。
「部活、どう?」「んー、まあまあ。はい、これ食べろよ。」「村上君もバスケ部にはいるんでしょ?...お腹すいてないから、かわりに理来たべていいよ。」
理来が持つトレーを軽く押し拒絶すると、理来は表情をしかめた。
「入ったよ。...薫もな。」
「え、薫君も?」
茶道部に入るっていってたのに、どうしてだろ。あ、もしかして理来がバスケ部に入るからかな?
そう考え1人で納得していると、「はい。」とスプーンにのせた卵粥を口のそばまで近づけてきた。
「え、い、いいって。」
「食べろって。薬も飲めないだろ。」
「い、いいよ。」
「食べなさい。」
ぐぐぐ、と口に近づけてくる。
仕方なく口を開くと、理来はそのまま食べさせてくれた。